太陽にクソデカ黒点が発生していて、太陽フレアの影響で磁気嵐が起こるらしい、と言うのは金曜日の午後にTwitter(現X)で知った。
高校生の頃に物理と地学を選択科目で選んでいて、(曲がりなりにも)天文部という部活に入っていた自分としては「久しぶりに馴染みのある単語を耳にしたなぁ」くらいしか思っていなかったけれども、その磁気嵐がどうやら強大で、北海道でも低緯度オーロラが広範囲で観測できるかもしれないという話を聞き、是非その空を肉眼で確認して写真に収めたい!と思ってしまった。
と言うことで、今日はオーロラを見に行くためだけに北海道へ行き、19時間でとんぼ返りしてきた話をここに書く。
事の顛末はこのTwitterのツイートツリーに書いたけど、呟き忘れた所を追加して、改めて1つの日記に書き起こしてみる。たまにはこういう文体の文章を書かないと脳が鈍ってしまうので。
今からオーロラを観に北海道へ行きます。そして19時間後に成田へ帰ってきます。0泊2日の超弾丸旅です。
— Syun (@Link_syun) May 11, 2024
思いついたのは朝10時、飛行機のチケット取ったのは1時間前。オーロラが見えるかどうかすら分からない、ノープラン博打旅です。#S旅2024 pic.twitter.com/Xykqi3qX5g
オーロラを見に行こう!
11日(土曜日)は朝からなんとなく朝マックが食べたい気分だったので、地元のマクドナルドで朝マックを食べていた。ハッシュドポテトをかじりながらTwitterを見ていたら、今回の磁気嵐は過去観測されたなかでも最大クラスだとか、数十年ぶりの規模だとか、そんな話を見た。へー、すごいなぁ。書き込みによると北海道の広い範囲でかなり強いオーロラを見れるかもしれないとのこと。ふむふむ。ヨーロッパで観測されたオーロラの動画や写真も上がってきていて、確かにすごいオーロラが見えているらしい。緯度もそれなりに低いところからでも見れていて、確かに北海道でもはっきりとオーロラが見えそう。
だから、ひょっとしてもしかしたら、今から北海道へ行けばオーロラの写真が撮れるのではと思った。いつかオーロラは写真に収めてみたいなぁと漠然に思ってはいて、でもそれは北極圏へ相当高い金をかけて行かないといけないわけだけど、今日北海道で見れたらその何十倍も安い値段で実現可能なのでは???
いや別にね、別に本当に行く気は無いけどさ……と思いながらも試しに東京から北海道行きの航空券を検索してみたら、緯度の高い旭川や女満別とかはそれなりな値段がするけど、PeachとかのLCCなら新千歳まで5000円位で飛べそうだった。む、安い。飯代とか電車賃とか合わせても1万五千円で埼玉から北海道へ行って帰ってこれる。しかも、ちょうど土曜の夜ということで、一晩でオーロラ見たらさっさと12日(日曜日)に帰ってきてしまえば、月曜からの仕事にも何も支障なく行ける。
仮に北海道でものすごいオーロラが見れるとする。今日もし北海道へ飛ばず家でダラダラすごしたら「うわー、やっぱ北海道行けば良かった~、千載一遇のチャンスを逃した~」と今後何年も後悔することになるだろう。それならば、片道5,000円くらいは負担して本来ならば北極圏に行かないと見れないはずのオーロラを、格安で見れるチャンスに賭けてみるというのも良いのではないか。
…と、自分の頭の中で旅行をする理由ができあがってしまった。よし、ものは試し!とりあえず北海道へ行ってみよう!
…と思い立ったのは朝マックを注文してから食べ終わるわずか20分の間だった。
こうして、今回の旅が決まった。
それなりにフットワークが軽い方という自負はあるけど、ここまで唐突に旅の実施を決めたのは初めてかもしれない。
ただ弾丸北海道旅行を一人で実行するのには少し不安が残る。夜中に一人で行動するのもそうだし、一人じゃ情報収集も十分に出来ないだろうし、なによりオーロラを見れなかったときでも同行者がいれば良い思い出に出来る。一人で行ったら虚しい思い出が出来るだけだ。
と言うことですぐさま友人に連絡。ここでいう友人とは、数年前に東京から京都・大阪・徳島までママチャリで一緒に8日間旅をしたり、4日間サイコロの旅をして西日本を行ったり来たりした、旅慣れた友人(中学の時の同級生)である。もはやクレイジー旅のレギュラーメンバー。戦友と呼んでも良い。
そんな異常独身男性に当日の朝「いまから北海道へオーロラ見に行かない?」と電話したところ、彼はあっさりとOKを出した。フットワークが軽すぎる。
「じゃあ1時間後に駅前集合」と、中学生の時と同じような時間感覚で集合時間を決め、本当に1時間後くらいに旅の準備(カメラとヒートテック持参するくらい)をして集合した。リュック一つでふらっと駅前に集まるなんて、夏休みの暇な高校生か俺たちは。この時の時刻が大体土曜日12時前くらい。
で、とりあえず電車に乗って成田空港を目指す。航空券は電車の中で買った。まさに文字通りの見切り発車である。成田空港の出発時刻は土曜日15時20分、新千歳空港から成田空港へ帰る便の出発時刻が日曜の9時50分(11時半頃に成田へ到着)。
ここで最初の誤算。行きのPeachが手数料やらで結局6,000円くらいになったのは仕方ないにしても、どうやら日曜日の新千歳→成田便はそれなりに需要があるようで、価格が高かった。仕方ないのでスプリングジャパンの朝早い便を選択。それでも1万円くらい。往復航空券代1万円で行けそうだなという見通しは早くも1万六千円くらいに膨れ上がってしまった。
ただ、俺たちはもう電車に乗った時点で北海道へ行く気満々であり、謎に興奮していることもあって、「そんな予算超過など誤差!」と気にしないふりをした。これは来月のクレカ請求で気絶するパターン。
まあ、そんなこんなで急遽「北海道へオーロラを見に行く弾丸旅」が始まった。
タイムリミットは成田から飛んで戻ってくるまでの19時間。
目的はオーロラを肉眼で見て、写真に収めること。
こういう唐突に発生するタイムリミットありきの旅行、一度はしてみたかったんだよね(大体は水曜どうでしょうの影響)。
成田空港~札幌
成田空港に到着。3ヶ月前、AirJapanの韓国便初便に乗ろうとして欠航で乗れなかった、因縁の場所である。ちなみにその時隣にいたのも同じ友人。あのとき臨機応変に広島旅行へ変更出来たのも俺たち2人のクレイジー旅行経験値の賜だろう。
普段は貧乏人専用ターミナルこと第三ターミナルばかり使うので、第1ターミナルが久しぶりすぎて迷子になった。カードラウンジでゆっくりするはずが、保安検査場を通過したのは出発の20分前。なんか飛行機に乗るとき毎回バタバタしている気がする。機内で食べる軽食を買おうと思ったけど、時間が無くて買えず。
搭乗。機内はほぼ満員。良かったギリギリでチケット確保できて。
機内は狭いけど自分は特にこういうの気にならない人間なので別に大丈夫。たかが2時間くらいなのだから、我慢すれば良い。逆に足下やサービスが快適になってもJALとかANAとかのフラッグシップキャリアに3,4倍の金を払う方が躊躇する。所要時間一緒で同じ目的に行けるのであれば、サービス内容がチープでも安い方が良い。僕は別に良いサービスを受けるために飛行機に乗っているのではなくて、あくまで移動したいから飛行機に乗っているのだから。
閑話休題。
何故かは知らないけど、CAさんがパインアメを配っていた。大阪のおばちゃんかよ。
で、寝ていたら新千歳空港に到着。北海道は何度か来ているけど、毎回地方空港から出入りするので新千歳は4年ぶりくらいかもしれない。成田への機材の到着遅れで20分くらい遅延していた。
例の地図の前で記念撮影。ちなみに服装は朝マックを食べに行った時のままである。札幌を福井あたりだとすると、稚内の緯度は宮城くらいに当たるのか、だいぶ緯度が異なるなという印象。北海道ならどこでもオーロラ見れるだろうと来てみたが、本当に見れるか不安になってきた。高くても旭川の方が良かったかなぁ。
快速エアポートに乗車。この車両ももうそろそろ置き換えられてしまうので乗り納めかもしれない。座席が豪華で好きだったのに。この時点でもう18時。旅に行くことを思いついてから到着まで8時間くらいかかった。早いのか遅いのか。
電車内で札幌からの移動手段と行き先を考える。基本的にこういう限界旅行は移動中に次の移動先を考えるという自転車操業で成り立つのだ。
オーロラが見れるのは北の方角。札幌より南(北広島や千歳とか)から見ようとしても札幌の光害が酷くて見れないだろうから、出来れば札幌から離れていて北側に面している場所が望ましい。
色々考えてみた結果、まずは「小樽祝津パノラマ展望台」に行ってみることにした。小樽市外の北側に位置していて海に突き出している展望台である。以前、自分も行ったことがあり、どういう場所かもよく分かっている。天気も0時までは晴れ。
問題は、移動手段である。小樽駅からバスはあるが、帰りのバスが早い時間で終わってしまい19時以降は無いためタクシーか徒歩でしか帰れない。小樽駅から徒歩約1時間半。そしてもし小樽で見れなかったときに、次の場所へ行こうにも電車は0時前後で終電を向かえてしまうので物理的に移動できなくなってしまう。
今夜は徹夜でオーロラを探すのが目的なので、深夜でも移動できる手段となるとレンタカーしかない。
普段は公共交通機関しか使わないのだが、今回は仕方が無いということでレンタカーを借りることにした。
タイムズカーシェアにログインしてみたら、免許更新した際に新しい免許を登録し忘れていて、3~4営業日は待たなくてはならないらしい。そんなぁ。僕は今すぐ借りたいのに。仕方ないので、札幌駅前のレンタカー屋に連絡して車を確保した。予約は21時から8時。なぜ21時からかというと、12時間未満だと料金が安かったからである。レンタカー屋の営業開始時間から考えて返却できるのは8時くらいなので、必然的に開始時間は21時となるわけ。これが判断ミスだったと後々後悔することになる。
札幌駅に到着。この時点で18時45分ごろ。割と寒い。ヒートテックを持ってきて良かった。まだ日は暮れておらず、レンタカーの時間に余裕があったので北海道新幹線の工事状況や駅前を見て回った。何のために来たのかよく分からない変人2人組である。
腹が減ったので、札幌駅の地下で味噌ラーメンを食べた。やはり北海道に来たからには北海道のものを食べなければね。この店を出た時点で20時手前。今考えるとものすごく時間を浪費していた。
セイコーマートでデザートのアイスも買った。これが美味しいんだまた。
なんだか雰囲気としてはこれから宿へ入って寝るみたいな感じだけれど、今日の我々は違う。これから夜通しオーロラを探しに行くのだから。
結局やることが無くて21時まで待てず、少し早めにレンタカー屋に来た。
車を確保。これで夜中の移動手段はバッチリ。走行距離2,000kmも走っていない、ほぼ新車の日産ノートだった。
こういう時に流す曲と言えば、はやはりこれでしょう。今は春なのでアレガ・デネブ・アルタイル・ベガは見えないけど。
成田を出発して約5時間。だいぶ準備には時間がかかっている気がするけれど、これにて準備完了!いざゆかん、オーロラの世界へ。
小樽
僕が旅行先で車に乗らない理由は、単に車の運転が嫌い(疲れるので)だからというだけでは無く、旅情が感じられないからという部分が大きい。車はある意味走る密室空間みたいなものなので、走っている最中に周囲とのつながりが途切れてしまう。例えそこが沖縄だろうと四国だろうと車に乗った瞬間、メインは友人とのおしゃべりになってしまい、どこを走ろうが基本的には同じような体験しか生まれない。ネットで見た動画の話だとか、高校生の時の思い出とか、アニメの感想だとか「それ別にここじゃ無くても出来るよね」みたいなことに時間を費やすことが多くなってしまうのだ。これが鉄道だと乗っている人の服装や方便などから文化を感じることが出来るし、人の往来からその地域に住む人の生活を思い浮かべることが出来る。僕はそれこそが旅行の面白いところだと思うし、大切にしていきたいと考えている。
……なーんて、普段は「めんどくさいから運転したくない」という理由を作るために、それっぽい単語を並べてこんな屁理屈をこねているわけだが、今回は訳が違う。そもそも真夜中にはその地の文化を感じられるだけの人の往来はないし、観光スポットも閉まっている。ていうか、今回北海道に来た理由は北海道に来たいからという訳ではなく、単にオーロラが見えそうでそれなりに安く行けそうな場所が北海道だったという結果なので、別に僕は北海道を観光したいわけではなかった。今回の目的はあくまでオーロラをその目と写真に収める事である。
それなりに交通量が多く、土地勘のない初めての道や、癖のあるレンタカーのワンペダル式の加減速に困惑しながらなんとか札幌市街地を抜け、小樽市へ入った。そこで気づく「あれ、星見えなくない?」と。
事前に調べたところ、どうやらオーロラは星が見えるくらい晴れていないと見えにくいのそうだ。とりあえず近くのコンビニに車を止めて、空を見上げてみた。
曇っている。
星など何も見えない。「君の知らない物語」でテンションを上げてきた我々だったが、歌詞とは真反対の現象が起きていた(「今夜オーロラを見に行こう」とは突然言ったけどさぁ)。
でももう小樽市に入っちゃってるし、札幌へ引き返すより展望台に行った方が近いので、一縷の望みにかけて再び車を走らせた。
雪が多い北海道の特徴なのか、単に整備をサボっているだけなのかは知らないが、どうも道の停止線や中央線が消えている道路が妙に多い。かなり大きい道路なのに白線などほぼなく、単にアスファルトで舗装されているだけ、みたいな道路が多く、運転にはかなり頭を使った。
写真は暗くて撮れなかったが、通り道にあの有名なレンガ倉庫群の横を通った。古い町並みを最新の自動車で通り抜けるのなんかタイムスリップしたようで不思議だった。なかなか車で巡る小樽観光も悪くないかもしれない。
で、着いた。小樽祝津パノラマ展望台。着いたのは22時30分ごろ。慣れない道で安全運転しながら下道を通ってきたので、だいぶ時間がかかってしまった。
前述の通り、ここは1年前に小樽を訪れた際に来たことがある。昼間は地平線まで見渡せる景色の良い場所である。↓
小樽祝津パノラマ展望台。
— Syun (@Link_syun) 2023年3月2日
東を向いているので夕陽は見れないが、一面海でなかなか景色が良い。
遠くに羽幌とか増毛っぽい場所が見える。
風が吹き上げてくるのでなかなか寒かった。素手でカメラのシャッター押してたらすぐにかじかんで辛かったので、日没と同時に撤収。 pic.twitter.com/Np2LA0YTCH
https://x.com/Link_syun/status/1631312231597219841
以前来た際にはほぼ人がいないガラガラの状態だったが、今日はどうやら話を聞きつけた小樽市民がオーロラを一目見ようと殺到しているらしく、ひっきりなしに車がやってくる。「多分北を見渡せるだろう」というほぼ当てずっぽうでここまで来てみたが、道民がたくさん集まっている所を見ると、やはりこの場所を選んだのは間違いではなかったらしい。
展望台周辺は車だらけで止める場所が無かったので、少し奥の離れた駐車場に車を止め、三脚とカメラを抱え歩いて展望台へ向かった。流石に肌寒い。12,3℃くらい敷かなかったらしい。
そして肝心の天気はというと……
めちゃくちゃ曇っていた。
肉眼でもはっきり分かるほど北の方角に雲がかかっている。オーロラどころか星の一つも見えない。一寸先は闇。
「これは失敗だったなぁ」と二人間に微妙な空気が流れる中、ミラーレスカメラを構え、とりあえずバルブ撮影で露光を高めて写真を撮ってみた。高校で天文部にいた頃、天体写真の撮り方を学んだのでそれを思い出しながらシャッターを押す。
雲。
雲しか撮れていない。
しかし、これは撮って出し。もしかしたらRAW現像をすればうっすらとオーロラが写っているかもしれない。一度車に戻って暖房で温まりながら、持ってきたiPadでRaw現像をしてみた。それがこちら↓
なーんにも写っていない
星の一つも無い、素晴らしい曇天!
写真を見ると薄雲が空全体をまんべんなく覆っていることが分かる。奥に見える白い光は方角的に利尻島か、それとも船舶か。全体的に暖色で手前の草が赤っぽいのは展望台すぐ近くに止められた車のテールランプが当たっているから。湿度が高かったので、空気中の水分にあたり、写真全体が赤っぽくなっている。決してオーロラの影響ではない。
これは完全に来る場所を間違えた。電車の中で見た際には0時まで晴れだったはずの小樽の天気は、いつの間にか22時から曇りに変わっており、それを知らずに俺たちはまんまと乗り込んできてしまったのだ。わざわざダ埼玉から飛んできたって言うのに、こんな写真しか撮れないとは、アホか俺たちは。
その後も日付が回るまでなんとか晴れないか粘った。しかし、天候は一向に良くならず、ずぅっと雲が写るだけであった。
おまけに、上の写真を見てもらうと分かるが、ひっきりなしに車がやってきて展望台のすぐ目の前に車を止めるし、ライトを付けたり消したりドアを開けたり閉めたりするので、バルブ撮影を行っているとその光が写真に写り込んでしまう。車のライトはあまりにも明るすぎるので、シャッターを開けている間にそれが映り込むと写真は真っ白になってしまい、もう一回撮影し直し。30秒もシャッターを開けていられないような環境だった。北を見渡せる良い展望台だったが、どうも人気すぎて写真を撮るには向いていなかったようだ。
車に戻って、オーロラの観測情報を見てみる。なんでも兵庫でも観測されたらしい。そんな南でも見えるんだったら、雲が晴れれば俺たちもオーロラを眺めることが出来るはずだ。
…と、思ったのだが、どうやら磁気嵐的に一番強かったのは20時過ぎ頃らしく、そこからオーロラは若干弱まってしまったらしい。俺たちは「ここまで強いんだったら夜通し出ているだろ。徹夜すれば異界くらいは見えるはず」という適当な憶測で動いていたが、まずこれが間違いだった。しかも、この展望台も21時くらいまでは見えていて、オーロラっぽいものが見えたというツイートもあった。
20時前後というと、俺たちが味噌ラーメン食ってアイス食ってのんびりしていた時間である。アホ!なんで北海道着いた瞬間に移動しなかったんだ!ドアホ!!!!
なんてまあ、ひとしきり反省して、「こんなに金かけたのにこんな結果って…」と車の中の空気感が最悪になったが、そうも言ってられない。あと夜明けまで4時間ほどある。もしかしたらチャンスがあるかもしれない。最後の最後まで諦めない心を持って、俺たちはオーロラが見える場所を探すべきだ。このままヌケヌケと帰ったら、本当のアホである。使った金と労力と時間に顔向けできない。
俺たちは小樽の展望台から車を出し、もはや行き先も決めず、ひたすら道を走り始めた。水曜どうでしょうのアラスカの回(オーロラ見に行くやつ)みたいだね、という話を2人でした。時間があったらスパゲティ食べたい。
東へ
どうやら、札幌の東、岩見沢方面は晴れているようである。という情報を友人に調べてもらい、札幌を通り越しひたすら北東に進むこととした。北東に進むということは、左側が北となるので、助手席に乗っている友人に常に窓の外を見てもらい、オーロラが見えたら即座に撮影する体制を組んだ。
なんとしてでもオーロラを見なければなるまい。
小樽を再びあとにし(滞在時間2時間)、日付が回って空き始めた道路を法定速度で進む。道が真っ直ぐだから飛ばしたくなるけど、知らない道だし、夜間だしでリスクが高いので、周りに迷惑をかけないレベルで速度は抑えた。途中、ハクビシンだか狸だか、名前はよく分からないけどそういう系の小動物が目の前を横切った。おお、地方って感じがする。
移動中に調べてもらったら、どうやら岩見沢の西の新篠津村という所に天文台があって、そこでは20時頃にオーロラが見えたそうである。移動時間的にもそこが行ける限界だと考えて、目的地は新篠津村の天文台周辺にした。頼む、晴れててくれ。
道がひたすら真っ直ぐなので、眠気防止のために車内でカラオケ大会をした。
やっぱり北海道と言ったらこの曲でしょう。
当別で道の駅に寄った。道の駅トイレ綺麗ランキングみたいなもので1位を取ったらしく、確かにトイレが綺麗だった。昼間だったら地域の食材とかを買えるのだろうか。食べ物美味しそうだから、昼間に来たかった。
道の駅の近くは街灯なども無く、ひたすらに農地が広がっているだけなので、写真を撮るのに最適だと思い、適当な場所に車を止めて、北に向かってシャッターを切ってみた。
それが上の写真。撮ったときは気づかなかったが、Raw現像したところ右側の建物の上当たりの空が若干赤っぽくなっている。これはもしかしてもしかするとオーロラかもしれない。
まあ、撮ったときはそんなことに全く気づかず、やっぱ空しか撮れねえなぁと言って移動を続けた。
ちなみに、撮影した場所は本当に暗くて、手元に明かりが無いと自分の手すら見えないような暗闇だった。夏にこういう場所で星を撮影したらものすごく綺麗な写真が撮れるんだろうなぁと思った。
新篠津村
新篠津へ車を走らせる。いよいよ周囲には街灯も無くなり、いつの間にか対向車なども無くなり、車のライトが無いと周りが何なのかすら分からないところまで来た。オーロラはまだ見えない。街灯の数と反比例して俺たちのテンションは爆上がり。カラオケ大会の音量も次第に大きくなっていく。テンションとは裏腹に「これもう無理じゃん」という空気が二人に流れていた。スピーカーから流れてくる「バカみたいに はしゃいで歩いた 抱え込んだ孤独や不安に 押しつぶされないように」という歌詞がまあ沁みること。俺たちのことじゃん。これを空元気と呼ばずなんと言う。
空虚な空気感を運んで、車は新篠津村へ着いた。時刻は3時前。
天文台の近くにある公園?っぽい所の駐車場に止めた。同じような事を考えていた人は何人かいたようで、隣のプリウスにもオーロラを見に来たと思われる人が仮眠を取っていた。
雲は出ているが、さっきよりは薄い。星も頑張れば雲の隙間から見えるかも。
とりあえず、カメラを取り出して、北に向けて1枚写真を撮ってみる。
あれ????
なんか赤っぽい写真が撮れた。
これは!と思って急いでRaw現像してみる。
地平線あたりが赤い!
え?これオーロラじゃない???
真北に向いているので朝日とかではないし、北の方角に赤い光を発する建物なさそうだし。
いやこれ絶対オーロラだって!!!
オーロラっぽいものが撮れた事実に2人とも超興奮。思っていたよりしょぼいし、肉眼じゃ見れないし、なによりオーロラって確証は持てないけれど、徹夜で頑張って駆けずり回って初めてそれっぽいものが写った。もう感激。涙を流すくらい感動した。なんで自分でもこんなに感動しているのか分からない。
で、ここでまた痛恨のミス。あまりのうれしさにRaw現像を真剣にしていたら、3時を過ぎ、次第に空が白み始めてしまった。夏に近づいて日の出が急に早くなっていることを忘れていた。
日の出に近づき、撮って出しでもこのくらい明るくなってきてしまった。さっきまで周りは何も見えなかった周りの畑が、普通に肉眼で視認できるほど明るい。これはこれで綺麗ではあるのだけれど、もはや朝焼けなんだかオーロラ何だか分からない写真しか撮れなくなっていた。クソー。もうちょっと早く到着していれば、もっと見晴らしの良いところから撮れたのに……。と後悔するものの、仕方が無い。オーロラっぽいものは撮れたのだ。これは紛れもない事実。問題はそれがオーロラなのか判別がつかないって所だけで。
これが日の出の方角。とても綺麗だった。
撤収
最後に撮れたのがオーロラかは分からない。心の奥底では、朝焼けの可能性の方が高いのでは、という気もしている。けれども、僕たちの間ではあれはオーロラということに決定した。弾丸で北海道へ入り、徹夜で疲労困憊したすえにオーロラを撮影できたという達成感を得なければ、もうこの先札幌へ帰る気力すら起きてこなさそうだったからである。
上ってくる朝日を歓迎しつつ、帰ることにした。
ありがとう新篠津村、ありがとう北海道。
近くに奇跡的にあった、おそらく村唯一のセブンイレブンに車を止め、トイレを借り軽食を買って少しだけ仮眠させてもらった。夜間ずっとエナジードリンクをちびちび飲んで眠気防止していたのでほとんど眠れなかったけれど。
そこからはただただ、だだっ広い北海道の雄大な景色に感動しつつ車を走らせ、無事レンタカーを返却した。
札幌市内に入ったらこの曲を再生した。なんでだろう、ものすごい感動してくる。
走行距離は153km。あまり長距離を走らせない自分としてはかなり乗った方。ただし、カーブを曲がった回数は両手で数えられる程度しかない。北海道は道が真っ直ぐ且つ碁盤の目上なので右左折の回数が少なくて済む。小樽から新篠津まで4回くらいしか曲がってない。田中角栄もビックリ。
目的は果たした(ことにする)ので、後はもう帰るのみ。新千歳へ向かう電車にはまだ時間があったので、セコマでホットシェフを買った。出来たてほやほやだった。嬉しい。
札幌駅のベンチに座って食べた。ポテトがめちゃくちゃ甘くて感動した。サツマイモみたいな甘さ。何の品種を使っているのだろう。美味しかったからまた食べたい。
札幌に着いてほぼ13時間。撤収。
1日も経たないうちに新千歳空港駅へ戻ってきた。ちなみに友人はこのまま北海道へ残り、あと数日間ついでに観光してから帰るのだそうだ。フットワークが軽すぎる。
ということで、友人の見送りを受け、飛行機に乗った。ギリギリだったのでお土産は買っていないが「土日で札幌行ってきました。滞在時間は13時間です」だなんて職場で言ったら確実に変人だと思われてしまうので、あえてここは何食わぬ顔して「土日ですか?家で寝てましたよ。北海道のほうとかオーロラが見えたらしいですね。うらやましいなぁ」とか言うことにする。僕は職場では一般人のふりをしているので。
新千歳はLCCやミドルコストキャリアの選択肢が多いので、助かる。
流石に疲れて寝てたが、ふと目を開けたら松島っぽい光景が窓の外に広がっていて綺麗だった(写真ぼけてしまい残念)。
そして成田に到着。本当に19時間で帰ってきてしまった。自分史上、飛行機を使った旅で最短記録を更新した。多分破られることはもう何年かはないだろう。
このパンダを見ると長旅して帰ってきたなぁという気がする。19時間しか旅はしてないんだけどね。
感想というか総括
ということで、弾丸北海道オーロラ旅は終了。
本当に短い旅だったけれど、ここまで充実感のある旅は久しぶりかもしれない。
なんでここまで楽しかったと思えるのかというと、タイムリミットと明確な目的があったからだと思う。今まで旅行をするというと、とりあえず○○県に行って名所を観光して美味しいもの食べて…みたいなざっくりとした目標しか持っておらず、確固たる目的はあんまり無かった。そして目的に対する明確なタイムリミットも設定しておらず、間に合わなかったら時間ずらせば良いや、ぐらいに考えていたことが多かった。
しかし、今回はオーロラを見るという明確な目的と、一夜の間だけという限られた時間があり、そのためにいろんな所を回ったりドタバタ劇をしたりだとかをしたのがとても新鮮だった。ふとテレビの旅番組を思い返してみると、水曜どうでしょうとか路線バスの旅とかも明確な目的とタイムリミットがあり、それに対する出演者の焦りだとかドタバタ劇があるから面白く感じるのかなぁと思った(目的なくただ旅行するだけのどうでしょう軍団もそれはそれで面白そうだけど)。
あとは、自分自身「今日、北海道行かない?」と言われて「うん、行く」と言えるようなフットワークが軽く余裕のある人間になりたかったので、その夢が実現したっていうのもあるし、ほぼ日帰り北海道というあまりにも信じられない旅程に興奮していたのかもしれない。
とにかく、今回の旅はここ数年で一番面白かった。またやりたいかと聞かれたら(身体にはけっこうツラいので)回答は保留とするけども、貴重な体験と気づきを得られた。あれがオーロラかどうかは半信半疑だけど、その得られた経験だけで十分飛行機代の元は取れたと思う。
そんな感じで、久しぶりの旅日記を締めたいと思う。また面白い旅行をしたら書くかも。ではでは。